桜と更地

事務所の近くに大きな屋敷があった。
たいそう立派で、現存している家屋としても価値がありそうに見えた。
そんな家が少し前に壊されて更地になった。
張り紙で、ここに駐車場ができるとのアナウンス。
それからしばらくの間、何も工事されない時間が流れた。
敷地内の隅に一本だけ立派な桜の木が生かされたまま。
おそらく家の歴史を見守ってきたであろう桜に思える。
開花になり、見事に咲き誇った。行きかう人は写真を撮っていた。
そして、散った。
桜の木は倒され、更地にアスファルトが流し込まれた。
僕には、桜が散るまで工事を止めて、待っていたようにしか思えなかった。
聞いたわけではないので、これは僕の想像でしかない。
しかし、そう思えた時、妙に救われた。
おいおい、人間っていいもんだなと思えた。
想像でしかないのだけど。
イマジンは際限なく自由であり、それまで失いたくない。