蚊取り線香に燻され続けている。
このまま燻製になってしまいそうだ。
昨晩、野沢尚の短編小説「ふたたびの恋」を読んでいて、あの夏のことを思い出した。
大学4年の夏。
御茶ノ水校舎にアートスタジオという劇場があって、そこが学生時代のフルタ丸のホームグラウンドだった。
第4回公演『鹿を洗え』という珍妙なタイトルの演劇を創っていた。
無料だからと劇場を無駄に2週間押さえて、ダラダラとセットを建て、ダラダラと過ごしながら、ゆるやかに本番へと突入していく。
ハレとケもない、今では考えられない時間の使い方をしていた。
そんなレイジーな飯時に、当時のメンバーの誰だったか忘れたが「野沢尚、死んじゃったみたい」ということを言い始めた。
「えええ!?」
と声に出したい気持ちを堪え、努めて冷静に耳をそばだてていた。
どうやら自殺らしいと知ったところで、家に帰りニュースを見て落ち込んだ。
確か数カ月前に、パルコ劇場で野沢尚が書いた脚本「ふたたびの恋」という舞台を観たばかりだった。
その日は初日公演で劇場ロビーを歩く本人を目撃。「野沢尚がいる!」とザワザワした。
中学、高校とテレビドラマばかりを見ていたせいで、僕の中のスターは俳優よりも脚本家だった。
書いたものを見ただけで、クレジットを見ずとも書き手が誰なのか分かるもの。
作家性ということになるんだろうけど、そういうものがある人を追いかけてしまうね。